ダイム(英: Dime)として知られるアメリカ合衆国10セント硬貨は、1アメリカドルの10分の1と同等の価値を持つ硬貨である。硬貨は現在アメリカ合衆国の中で鋳造・流通する全硬貨の中で最も薄く、直径は最小である。表側にはアメリカ合衆国第32代大統領を務めたフランクリン・ルーズベルトの肖像が描かれ、裏側にはオークの松明とオリーブの枝に覆われた、アメリカ合衆国のモットー「 E pluribus unum (多数からなる一つ)」がデザインされている。硬貨には実際の価値を示す「10セント」といった単位は記されておらず、「 one dime (1ダイム)」と刻まれているのみである。
ダイム硬貨は、1792年の貨幣法によってその権限を与えられ、1796年より鋳造が始まった。最初のダイムは自由の女神像(リバティ)を象った女性の横顔が表側に、ワシの姿が裏側に描かれている。硬貨の表と裏にはこのモチーフをもとに、1837年まで3つの異なったデザインが描かれた。1837年から1891年にかけ、「シーテッド・リバティ(自由の女神の座像)」がデザインされた硬貨が発行され、盾の横に座った女神が描かれた。1892年、同じく自由の女神を模した女性の頭部の描写が再び硬貨に用いられるようになり、硬貨のデザイナーであるチャールズ・E・バーバーの名前から「バーバー・ダイム」と呼ばれた。1837年より後に鋳造されたこれら2つの種類の硬貨には、裏側の花冠に飾り付けられた「ONE DIME」の文字が刻まれた。1916年、羽つき帽をかぶった自由の女神の横顔が硬貨の表側にデザインされ、通常「マーキュリー・ダイム」と誤称される。この硬貨の裏側には束桿(そっかん)が彫られた。現在の硬貨のデザインへ変更が行われたのは1946年である。
その鋳造の歴史の中で、硬貨に含まれる金属の比率や直径は変えられてきた。最初は硬貨の大きさが19mm (0.75in) の幅で造られていたが、1828年に現在のサイズである17.91mm (0.705in) へ変更されている。当初は89.24%の銀と10.76%の銅で構成されていた硬貨も、1837年を境に90%の銀と10%の銅へと比率が改められた。この構成で硬貨は1966年まで鋳造された。しかし、1965年と1966年に鋳造された硬貨は、1964年の鋳造年が刻まれている。1965年初頭、ダイム硬貨は白銅などで構成される、クラッドメタルと言う張り合わせ合金を用いて鋳造され始め、現在もこの製造法が続いている。
「ダイム」という言葉はフランス語の「 disme (現代のフランス語では dîme と綴る)」という語からきており、「十分の一税」や「10番目の部分」を意味する。この「ダイム (DIME) 」の文字は初期の硬貨に既に刻まれていたが、1837年までどの硬貨にも用いられることはなかった。
アメリカ合衆国における10進法を基本とした硬貨鋳造の仕組みは、トマス・ジェファーソン、ベンジャミン・フランクリン、アレクサンダー・ハミルトン、デヴィッド・リッテンハウスによって1783年に提案がなされた。合衆国の初代財務長官を務めていたハミルトンは、議会の記録の中でこうした6つの硬貨の発行を推奨している。6枚の新硬貨案のなかには銀貨があり、これは「価値や重さが、1単位あたりの銀及びドルの10分の1に相当するもの」とされた。ドルの10分の1ということから、この新しく鋳造される硬貨の名称は「 tenth (テンス、10分の1)」とされた。
1792年4月2日に通過した貨幣法は、銀の重さとドルの価値の10分の1に値する、「 disme 」硬貨の鋳造を認可するものであった。この硬貨の構成は、銀89.24%と銅10.76%だった。1792年に限られた数のみこの「 disme 」硬貨が鋳造されたが、世間一般に流通することはなかった。これらの中には銅で打ち抜かれたものがあるなど、実際には1792年の硬貨が流通を目的としない原型硬貨に過ぎなかったことを示している。その後硬貨の需要が無く、アメリカ合衆国造幣局で硬貨の鋳造に問題があったため、1796年まで10セント硬貨は流通用として鋳造されなかった。
「ドレイプト・バスト」と呼ばれる最初の10セント硬貨は、コインの価値を示す「 - cent 」等の刻印が描かれていなかった。これは1809年に「キャップト・バスト」と称される種類の硬貨の発行が始まるまで続いた。このキャップト・バスト硬貨は、裏側に価値を表す「10 C. 」のマークが印されている。こうした硬貨が鋳造されていた間は、造られる期間も不規則で、1799年や1806年はドレイプト・バスト硬貨が鋳造されておらず、その次の種類であるキャップト・バスト硬貨も鋳造されたのは1809年、1811年、1814年、1820年のみである。1827年よりほぼ毎年硬貨の鋳造がおこなわれているが、中には鋳造数が極端に限られていた年もみられる。
1837年、ダイムは「シーテッド・リバティ」硬貨へとデザインが変更された。これはその前年にデザインされた「シーテッド・リバティ・ダラー」硬貨と同様の意匠である。加えて、硬貨の大きさや銀の含有量にも変更が施された。このシーテッド・リバティ・ダイムは54年間鋳造され、2001年にルーズベルト・ダイムが55年を迎えるまで最も長く硬貨に使用されたデザインだった。
1892年、バーバー・ダイムがお披露目となり、1916年まで鋳造が続けられた。中でも「1894-S」版のバーバー・ダイムは著名であり、たった24枚の硬貨が打ち出されたことが確認されているほか、そのうち9枚のみが未だに存在している。2005年5月7日にはオークションにてその9枚のうちの1枚が130万ドルという高値で落札され、オークション史上最も高い落札額のダイム硬貨となった。
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